2022-09-22

Tillandsia ionantha 'Fire'
ティランジア・イオナンタ ‘ファイア’

Tillandsia ionantha 'Fire', ティランジア・イオナンタ ‘ファイア’ 

チェコのJanさんから入手したもの。前回の開花時には全草が真っ赤になって、まさにファイア!という感じだったけど、今回の色付きは緑色の部分も残った(相変わらず赤の発色は濃く鮮やかだけど)。

もしも、このイオナンタをラベル無しで見せられて「このイオナンタは何?」と問われたら、「フエゴだと思う」と即答する。それくらいフエゴっぽい外観。なので入手時にJanさんに「 'Fire'  はFuegoの選抜品種か?」と問い合わせたら「 'Fire'はFuegoではない」との回答だった。ただしお互いに英語ネイティブではない同士が英語でやり取りしたので、もしかしたら「Fire=Fuegoか?」「違うよ」というやり取りになっていたのかもしれない。

今までのところは、姿や育ち方のいずれもがフエゴに見えて、逆にフエゴとは異なる特徴を見つけられずにいる。開花期もフエゴ(秋から冬にかけて咲く)と一致している。個人的には、フエゴそのものではないとしても同系統なのは間違いないと思っている。


2022-09-02

Tillandsia ionanta に関する興味深い論文(2022−06公開)を見つけた。内容としては、各地で採集したイオナンタを遺伝子解析した結果をまとめたもの。出典などを明記すれば二次利用可な論文なので忘備録として要点をまとめた(誤訳や解釈の間違いなどあるかもしれないので、正確なことは下記を参照してください)。


--以下要約--
Tillandsia ionanta complex(ティランジア・イオナンタ複合群)には分子分類的には独立した8つの系統が内包されていた。
・8つの系統の内で形態学的にも分類可能なものは3つで、それぞれ T. scaposaT. vanhyningiiT. ionantha var. stricta である。
・形態学的に分類できない基本変種の T. ionantha にも分子分類的には5つの独立した系統が内包されていると認識するべきである。
 (平たく言えば T. ionantha は外観が酷似した5種の寄せ集め)
T. ionantha var. stricta を種に格上げして T. ramireziana を提唱する(新名称としたのは変種名である stricta がすでに別種に用いられているため)。
T. ionantha var. stricta forma fastigiata は 分子分類的に基本変種との差異は認められず T. ramireziana に含める。
T. ionantha var. maxima は分子分類的にも形態学的にも変種とするほどの差異は認められなかった。

形態学的には分類できない、基本変種の T. ionantha に内包される5つの系統は以下の通り
系統1: ガテマラからニカラグアの集団(T.ionantha var zebrina の産地も含まれる)
系統2: メキシコ北部大西洋側 ハルコムルコ、エル・イゴ、トリマン、エル・トロンコンの集団
系統3: メキシコ北部太平洋側 ポチョティタンの T. ionantha
系統4: メキシコ北部太平洋側 マタタンの T. ionantha
系統5: メキシコ中部太平洋側 ハリスコ、ピルカヤ、サント・トマス・デ・ロス・プラタノス、エル・プエンテ、ウアメルーラ(T. ionantha var. maxima を含む)の集団

T. ionantha complexに含まれる8つの系統は3つのクレードからなる。
クレード1: 系統1、系統2、T. ionantha var. strictaT. ramireziana)、T. scaposaT. strepotphyllaT. pruinosa と関連性が高いクレード。
クレード2: 系統3と系統4は系統発生的に他の T. ionanatha から分離されており、T. lydiae や T. variabilis と密接に関連しているクレード。
クレード3: 系統5と T. vanhyningii T. dasyliriifolia と関連性が高いクレード。
--要約ここまで--

以下は個人的な感想
・イオナンタの基本変種が多系統群だということはとても腑に落ちる。個体群によって開花の季節が異なることなど、色々と説明がつく。
・系統1=所謂ガテマラタイプだろう。葉の幅と長さの比や形状などで形態学的にも他の系統と区別して分類できそうな気もするが…
・メキシコタイプとされるイオナンタ(の大半)は系統5だろう。
・メキシコタイプとガテマラタイプは「まるで別種」だと感じていたのはある意味正しかった。
・ガテマラタイプと変種ストリクタは「異なるけど近い」と感じていたが、同じクレードに含まれるということで納得。
・今回の調査には’フエゴ’に相当する個体群が含まれていなかったようで残念。おそらく今回提案された8つの系統には含まれない別の系統ではないかと思うし、形態学的にも分類できると思うんだけど。
・分子分類的には変種ストリクタと品種ファスティギアータに差がなくても、形態に差があるんだから T. ramireziana f. fastigiata として残していいだろうと思った。
・Pamela Koideが「これは他のイオナンタとは違う」と考えて、変種ストリクタを記載したことの正しさが分子分類的にも裏付けられた形。Pamelaさんの洞察力すごい。
・翻って変種マキシマは…やっぱりそうだよね。
・やはりローカリティデータはとても大事。
・メキシコタイプ同士でシブリングした際は簡単に結実したのに、メキシコタイプとガテマラタイプや、変種ストリクタとバンハイニンギーを掛け合わせた時に結実しなかったのは当然の結果だったようだ。
・イオナンタ同士でも無闇矢鱈と交配して採れた種子からの株を単に「イオナンタ」としてはダメだ。
Tillandsia usneoidesも同様の解析をして欲しい(分布が広すぎて恐ろしく大変だろうけど)。
Tillandsia fasciata complexにも同様の解析が待たれるのだろう(けど個人的には興味がない)。